質問<3136>2006/5/2
A君は一目惚れした彼女に熱烈な手紙を出したがついに返事は来なかった。 ただし出した先は、私信を検討するので悪名高い女子寮で、検討に引っかかって 彼女の手に渡らない確率は30%、彼女がそれを見て好意を抱いてくれても羞恥心 から返事を書かない確率は70%、見ても一笑に付してくずかごに投げ込む確率は 50%とする。A君には何%の割合で望みが残されているのだろうか?? ★希望★完全解答★
お便り2006/5/4
from=亀田馬志
ふふふふふ(笑)。これ面白い問題なんですけどねえ・・・・・・・。 これ問題正しいですか? Aって条件でBが起こる条件付確率をP(B|A)と表記するとすると、 P(羞恥心 から返事を書かない|一目惚れした彼女に手紙が渡る)=70% P(一笑に付してくずかごに投げ込む|一目惚れした彼女に手紙が渡る)=50% P(手紙を返信する|一目惚れした彼女に手紙が渡る)=?% って原理的には3つの事象が存在してて、これらが確率の公理を満たしていないん ですよね。(ご覧の通り和が100%を超えています) よってこのままでは計算は不可能だと思います。
お便り2006/5/9
from=ボブ
再質問。問題は正しいみたいです! A君は一目惚れした彼女に熱烈な手紙を出したがついに返事は来なかった。 ただし出した先は、私信を検討するので悪名高い女子寮で、検討に引っかかって 彼女の手に渡らない確率は30%、彼女がそれを見て好意を抱いてくれても羞恥心 から返事を書かない確率は70%、見ても一笑に付してくずかごに投げ込む確率は 50%とする。A君には何%の割合で望みが残されているのだろうか??
お便り2006/5/10
from=JJon.com
Google検索したところ,次の本に載っている問題のようです。 小針あき宏「すべての人に数学を―対話・現代数学入門」(日本評論社 1998) http://shun.s35.xrea.com/d/d2003/d12/d08.html http://www.amazon.co.jp/gp/product/4535782652/ 文章題なので,数学の問題というよりもまず, 登場する値は何を分母にした確率なのか,望みがあるってどういう状態か, という文章解釈によって結論が左右されますよね。 とりあえず私は,この文章を次のように解釈してみました。 (1) 0.3 彼女の手に渡らない …もしも彼女の手に渡ったとして… (1-1) 0.5 くずかご行き (1-2) 0.5 好意を抱く (2) 0.7 彼女の手に渡る (2-1) 0.5 くずかご行き (2-2) 0.5 好意を抱く (2-2-1) 0.7 返事を書かない (2-2-2) 0.3 返事を書く 「返事はこなかった」という結果がすでに分かっているので,それが分母。 分母は,(1)+(2-1)+(2-2-1) = 1-(2-2-2) = 1-(0.7×0.5×0.3) = 0.895 続いて「一笑に付してくずかごに投げ込む」ことがないのなら, 好意を抱いてくれている=「望みが残されている」と解釈しました。 分子は,(1-2)+(2-2-1) = (0.3×0.5)+(0.7×0.5×0.7) = 0.395 この解釈ですと,答えは 0.395÷0.895 = 約44%となりました。
お便り2006/5/12
from=亀田馬志
では僕もやってみます。あまり文章題としてはイイ問題とも思えま せんし、出題者の意図に沿っているかどうか分かりませんが、 JJon.com氏の回答と合わせて参考になさって下さい。 この問題の特徴的なトコロは恐らく「ベイズ統計学」絡みではないか 、と思われるトコロです。これがこの問題を難しくしている部分だ と思います。と言うのも、通常の統計学は大学レベルまでで扱いま すが、ベイズ統計学は大学院以上で扱い、しかもかなり「マイナー な」統計学なんですね。よってあまりポピュラーではありません。 ですから普通の意味でも「難問」なんですね。 ベイズ統計学とは何か?通常の統計学は「標本理論」と言って「頻度確 率」を扱う統計学ですが、ベイズ統計学で扱う確率は解釈が違い、「 主観確率」と言われるものを扱います。端的に言うと「主観確率」と は「思い込みを数値化したもの」です。 「個人主観なんかを確率として扱っていいのか?」 この「主観確率の存在」をめぐって過去(そして今も)論争が起きてい ます。例えば質問<2843>で「じゃんけんの確率」が扱われてい ましたが、これはまさしく「主観確率」でしょう。件の問題で Cononymous Award氏が 「私にも分かりません。確率として論じられるものなのか、が。」 と仰っていましたが、これがまさしく「頻度主義」の方の意見だと思 います(これは別に間違ってる、って言ってるワケではありません) 。 しかしながら、このような「じゃんけんの確率」や、この問題のよう な「一目惚れした彼女がA君の事を好きである確率」なんかは、そも そも「頻度が成り立たない」下での確率なので、こう言う場合はいっ そ「ベイズ的アプローチ」が有用でしょう。 別に僕自身そんなに「ベイズ好き」では無いんですが(笑)、敢えてコ コでは「ベイズ的アプローチを」企ててみましょうか。 さて、ところで、問題の単純化も含めて、実は最終的な事象は次の 3つがあるんですよ。 「そのコはA君の事を好き」「そのコはA君の事を嫌い」「そのコには手 紙が届いていない」 JJon.com氏は「彼女の手に渡らない」事象の下で「もしも彼女の手に 渡ったとして」と言った仮定を導入していますが(それが間違ってる とは言いません)、僕の場合は「彼女に手紙が渡ってないのだったら 好きも嫌いも言い様が無い」と言った仮定を導入します。少なくと もここでは最終的には3つの事象が存在するとしましょう。 つまり、対象とする確率は P(彼女はA君の事が好き) P(彼女はA君の事が嫌い) P(彼女に手紙が届いていない) の3つです。そして3番目の「手紙が届いていない確率」30%しか今の トコ分かってないんですよね(そして上記の3つの確率は当然確率の 公理を満たすものとします)。 次に、問題に従ったパターンとしては次のような表になるんですね 。
返信アリ | 返信ナシ | |
---|---|---|
彼女はA君が好き | 30% | 70% |
彼女はA君が嫌い | 50% | 50% |
彼女に手紙が届いていない | 0% | 100% |
お便り2006/5/13
from=亀田馬志
さて、ついでにちょっと面白い実験をしてみました。 僕は別に「ベイズ好き」ではないのは前述してますし(ハッキリ言うと、標本理論/ベイズ 統計学と言った概念的な区分けはともかくとして、標本理論の方が統計解析マニュアルは 豊富なので扱い易い、って思っています)、ひょっとしたら間違った事書くかもしれませ んが、ちょっと思いついた事があったので、ネタになればなあ、と感じました。あくまで 参考までに、と言う事です。 さて、前述のA君の最初の「思い込み」、つまり「事前確率」は、 P(彼女はA君が好き)=35% P(彼女はA君が嫌い)=35% P(手紙が届いていない)=30% として、「手紙が返信されて来なかった」条件での事後確率は P(彼女はA君が好き|返信ナシ)=34.03% P(彼女はA君が嫌い|返信ナシ)=24.31% P(手紙が届いていない|返信ナシ)=41.67% でした。これを考えれば少なくとも、手紙が返信されてないにせよ「彼女がA君を好きで ある」確率は34.03%、「単に手紙が届いていない」確率も合わせて考えてみれば75.7%も 「希望があった」のです。 そこで次のような問題を考えてみます。 『A君は一目惚れした彼女に再び「希望を持って」熱烈な手紙を出してみた。 またしてもついに返事は来なかった。 ただし出した先は、私信を検討するので悪名高い女子寮で、検討に引っかかって 彼女の手に渡らない確率は30%、彼女がそれを見て好意を抱いてくれても羞恥心 から返事を書かない確率は70%、見ても一笑に付してくずかごに投げ込む確率は 50%とする。A君には何%の割合で望みが残されているのだろうか??』 さてさて今度はどうでしょうか(笑)? 実はベイズ統計学には「ベイズ更新」と言った特徴があって、「t期の事後確率はt+1期に 対しては、あたかも事前確率になる」(意思決定の基礎(松原望・著))のです。 そこで、前回得られた「事後確率」を今回の「事前確率」としてベイズの定理を用いてみましょう。 P(彼女はA君が好き|返信ナシ)=P(返信ナシ|彼女はA君が好き)*P(彼女はA君が好き)/{P (返信ナシ|彼女はA君が好き)*P(彼女はA君が好き)+P(返信ナシ|彼女はA君が嫌い)*P( 彼女はA君が嫌い)+P(返信ナシ|彼女に手紙が届いていない)*P(彼女に手紙が届いてい ない)} =(70%×34.03%)/(70%×34.03%+50%×24.31%+100%× 41.67%) ≒30.68% となります。 同様な計算で、 P(彼女はA君が嫌い|返信ナシ)=15.65% P(彼女に手紙が届いていない|返信ナシ)=53.67% となります。これらも合わせると100%になっているのを確認してみて下さい。 ちなみに「彼女に手紙が届いていない」も「望み」に加えるなら、なんと一回目に返信が無 かった時より「望み」の程度が上がっているのです!!! さてさて、普通の人なら「2度ある事は3度あるからなあ・・・・・・。」と諦めるトコロですが、 ところがどっこいA君は粘着気質、もとい(笑)、数学が得意だったので、「ベイズの定理」 の結果を信用して、3回目の挑戦に及んだのです・・・・・・。 とまあ、こう言う筋書きを考えてみましょう。なかなか面白いでしょ(笑)? さて。では「延々と彼女から返事が来なかった」として、果たして「返信ナシの条件」での それぞれの事後確率が一体どう変化していくのか、ちょっとご覧入れましょう。ビックリ しますよ(笑)。
彼女はA君が好き | 彼 女はA君が嫌い | 彼女に手紙が届いていない | |
1回目のラブレター | 34.03% | 24.31% | 41.67% |
2回目のラブレター | 30.68% | 15.65% | 53.67% |
3回目のラブレター | 25.88% | 9.43% | 64.68% |
4回目のラブレター | 20.70% | 5.39% | 73.91% |
5回目のラブレター | 15.91% | 2.96% | 81.13% |
6回目のラブレター | 11.88% | 1.58% | 86.54% |
7回目のラブレター | 8.69% | 0.82% | 90.48% |
8回目のラブレター | 6.27% | 0.43% | 93.30% |
9回目のラブレター | 4.49% | 0.22% | 95.30% |
10回目のラブレター | 3.19% | 0.11% | 96.70% |
11回目のラブレター | 2.25% | 0.06% | 97.69% |
12回目のラブレター | 1.59% | 0.03% | 98.38% |
13回目のラブレター | 1.12% | 0.01% | 98.87% |
14回目のラブレター | 0.78% | 0.01% | 99.21% |
15回目のラブレター | 0.55% | 0.00% | 99.45% |
16回目のラブレター | 0.39% | 0.00% | 99.61% |
17回目のラブレター | 0.27% | 0.00% | 99.73% |
18回目のラブレター | 0.19% | 0.00% | 99.81% |
19回目のラブレター | 0.13% | 0.00% | 99.87% |
20回目のラブレター | 0.09% | 0.00% | 99.91% |
21回目のラブレター | 0.07% | 0.00% | 99.93% |
22回目のラブレター | 0.05% | 0.00% | 99.95% |
23回目のラブレター | 0.03% | 0.00% | 99.97% |
24回目のラブレター | 0.02% | 0.00% | 99.98% |
25回目のラブレター | 0.02% | 0.00% | 99.98% |
26回目のラブレター | 0.01% | 0.00% | 99.99% |
27回目のラブレター | 0.01% | 0.00% | 99.99% |
28回目のラブレター | 0.01% | 0.00% | 99.99% |
29回目のラブレター | 0.00% | 0.00% | 100.00% |
30回目のラブレター | 0.00% | 0.00% | 100.00% |
お便り2006/5/23
from=亀田馬志
質問<3136>2006/5/2に於いて、JJon.com氏が、 >Google検索したところ,次の本に載っている問題のようです。 小針あき宏「すべての人に数学を―対話・現代数学入門」(日本評論社 1998) と仰ってましたが、実はこの本の問題ではなくって、同じ著者の 小針あき宏「確率・統計入門」(岩波書店) http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/qsearch がこの問題の出所です。 「すべての人に数学を―対話・現代数学入門」には同問題は掲載されていません。買って 確かめたので間違い無いです(実は気になって古本購入してしまいました・笑)。ついでに 住んでる傍の茨城大学図書館で「確率・統計入門」借りてきました。 この「確率・統計入門」の著者、小針あき宏氏は京都大学の数学者だったそうですが、 39歳で早夭されたようです。言わばこの本は著者の遺稿で、'73年に出版されたにも関 わらずいまだに高い評価を受けているそうです。 その岩波の「確率・統計入門」ですが、確かに非常に面白い本です。 実は僕は既に結構な量の「確率・統計」関係の書籍に埋もれているんですが(笑)、「数学 者が書いた確率・統計入門」なんてのはメッタにお目にかかれないシロモノなんですね。 普通数学者が書く「確率・統計関係の書籍」ってのはもっと高度な、例えば「測度論」で あるとか、「ルベーグ積分論」であるとか、そんなんばっかで、本当に数学者が書いた 「確率・統計入門」なんてのはまずありません(知ってる範囲で言うと、って事ですが)。 有名どころの東大出版会3部作にしたって、「教養学部統計学教室編」になっていますし、 通常、心理学部の人、経済学部の人、教育学部の人、等等等、大体「確率・統計入門」は 全くの異業種の方々の参入に拠って支えられています。これも「確率・統計は数学ではな い」と言った事柄の一面だと思います。 そう言う意味でもこの本は希少価値があるんですが、なんせ文章がメチャクチャ面白いで す。この小針氏、相当ユーモアのセンスがあるみたいで、練習問題もほぼ、彼の自作問題 らしいです。いわゆる普通の「確率・統計入門」ではお目にかかれないような珍問・奇問 のオンパレードです。それが「あの問題」を生み出す土壌となっているのでしょう。 何で「あの問題」が通常の確率・統計関係の入門書等で扱われていないのか、と言うと、 やはり「××主義」とか言う立場では扱えない、と言った問題があるからです。そして、 通常の「××主義」で確率・統計を扱う以上、パースペクティヴを一貫させて教科書を作 る事が悪い事とは言いませんが、「これは一つの見方である(他にも色々な見方があるん だよ)」と提示している本はあまりにも少なく、学習者側の立場から言うと、いきなり 「ある主義」が絶対的に正しい、と思い込まされてしまう弊害があります。学習者側に は「選択の余地」があまりにも無いんですね。本来だったら「拒否する」って選択肢が あってしかるべきだとは思うのですが。 この点、小針氏はとてもニュートラルで、あくまで「一数学者」としての論法を貫き通 そうとします。つまり、「仮定は仮定だ」と初めっから明言しているのですね。この態度 こそ「科学的」で、至極共感を覚えました。 いきなり冒頭で、 「コインの表が出る確率は1/2ではない」 と明言されて(笑)、ある種の人達には面食らう発言かもしれませんが、以降著者の術中に ハマって行く事でしょう。 是非とも僕みたいな「確率・統計嫌い」の人達に読んでもらいたい本です。お薦めです。
お便り2006/5/23
from=亀田馬志
では件の問題の小針氏の「模範解答」です。 別に僕の解が「間違っていた」って気は毛頭無いんですが、一応問題作成者の解をお見せ します。 僕の場合は「ベイズ的アプローチ」を試みたんですが、小針氏は普通の「条件付確率の 問題」として解いているようです。 使っている公式自体は両者とも「条件付き確率の公式」なんですが、アプローチが違えば 解も変わって来る、と言った好例だと思います。小針氏が著書の中で明言しているように、 「解は一様には決まらない。解釈によって変わるのだ。」と言った主張が図らずしも証明 されたような格好になってしまいました。 そして、JJon.com氏の回答とも合わせて吟味して下さい。 『返事が来ない、という状態を前提としての条件付確率である。起り得るすべての場合を 考え、それをΩとして確率モデルを考えよう。検閲にかかって手紙が彼女の手に届かない という事象をA、届いてくずかご行きをB、届いて好意をもっているが羞恥心から返事をく れないという事象をCとする。A、B、Cは互いに交わらない。そして、 P(A)=0.3 P(B)=1/2*P(A^c)=1/2*(1-0.3)=0.35 P(C)=0.7×P(Ω-A-B)=0.7×(1-0.3-0.35)=0.245 返事が来ないと言う事象Eは E=A+B+C そしてK君(註:原文ママ。問題ではA君だったのが解答ではK君に変わっています・笑。)が 希望のもてるのはCの場合だから P_E(C)=P(E∩C)/P(E)=P(C)/{P(A)+P(B)+P(C)} =0.35×0.7/(0.3+0.35+0.35×0.7)=0.245/0.895 ≒0.273 27%も希望がもてるのだから、やってみるものである。』